南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領が危篤状態に陥っているとのニュースを耳にして、クリント・イーストウッド監督による、モーガン・フリーマン、マット・デイモン主演の映画『インビクタス/負けざる者たち』を思い出しました。
この映画は、1995年の第3回ラグビーワールドカップを舞台に、当時の南アフリカ大統領ネルソン・マンデラとラグビー代表チーム「スプリングボクス」のキャプテンとの交流を軸とした物語です。
当時、私はまだ現役でラグビーをやっていたので、主要な試合はほぼリアルタイムで観戦しており、その試合内容は今でもよく覚えています。
圧倒的な存在感
試合以上にとりわけ印象的だったのは、開会式と決勝戦終了後の表彰式に姿を表したネルソン・マンデラの姿でした。大柄なラガーマンに比べれば小柄な風貌にも関わらず、その試合会場の中では圧倒的に大きな存在感を醸し出していたことが、今でも強烈に思い出されます。
人種隔離政策「アパルトヘイト」により、ラグビーの国際試合から爪弾きにされていたスプリングボクスは、前2回のワールドカップにはいずれも出場できませんでした。
ニュージーランド「オールブラックス」、オーストラリア「ワラビーズ」と並んで、世界の三強として名高い「スプリングボクス」ですが、3回目にしてやっとワールドカップの舞台に立つことができたわけです。
もちろん、それはアパルトヘイト撤廃の象徴とも言える、南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラの存在なくしてありえなかったことは言うまでもありません。
怪物ジョナ・ロムー
この第3回ラグビーワールドカップでは、オールブラックスの怪物ウィングことジョナ・ロムー(Jonah Tali Lomu)が、国際的な大舞台で鮮烈なデビューを飾りました。
身長196cm、体重125kgの巨漢でありながら100mを10秒台で走るという、人間の規格から大きく外れた「デカくて速くて強い」ラガーマンでした。
準決勝のイングランド戦では、3人以上をなぎ倒しながら走り抜けトライを重ねる姿に、驚きを通り越して呆れるくらいでした。当時の映像は“Jonah Tali Lomu youtube”で検索すれば出てくるでしょう。
当然ながら、決勝戦の南アフリカ「スプリングボクス」vsニュージーランド「オールブラックス」の前評判は、圧倒的にオールブラックス優勢です。スプリングボクスの猛者たちでも、さすがにこの怪物ロムーを止めることはできないだろうと思われました。
さあ果たして、どちらが優勝の栄冠を勝ち取ったのでしょうか。
マンデラがスプリングボクスに託した使命
私にとっては、当時、国際大会で馴染みのなかったスプリングボクスは、正直なところ、どちらかと言うと敵役(ヒール)的な存在で、心情的には馴染みのあるオールブラックスに肩入れしたい気持ちが強かったように思います。
もちろん、この映画では、南アフリカ側の視点からワールドカップの様子を描いています。そのため、当時では気がつかなかったことがいくつも発見できました。
その最たるものは、ネルソン・マンデラやスプリングボクスの選手達にとって、この大会で優勝することは単なる目標というレベルではなく、決して妥協することのできない政治的な使命であったということです。
黒人大統領が生まれたとはいえ、未だに黒人と白人の人種対立が根強い南アフリカにおいて、ラグビーを通して、白人と黒人が共に自国に誇りと一体感を持ち、心を一つにすることがネルソン・マンデラにとっての最大の狙いでした。
そして、その意志を託されたのがスプリングボクスであるならば、彼らにとってはまさしく「絶対に負けられない戦い」だったのでしょう。
表彰式にて、優勝チームのキャプテンがマンデラ大統領から手渡されたカップを高々と差し上げた時、マンデラも拳を突き上げてガッツポーズをしました。この光景は英国のテレビで「スポーツにおける偉大な瞬間100」の1つとして取り上げられたそうです。
(via ラグビー日本代表公式サイト)
以上TONELIKOでした。
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